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「ベーシック圏論」に関するメモ

概要

最近ベーシック圏論の勉強会をやっています。

勉強会の中で学んだことをそのままにしておくのはもったいないなと思い、メモとして残しておくことにします。

ベーシック圏論 普遍性からの速習コース

ベーシック圏論 普遍性からの速習コース

  • 作者:Tom Leinster
  • 出版社/メーカー: 丸善出版
  • 発売日: 2017/01/29
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)

勉強会の方針が「集合の圏と線形空間の圏を例として用いることで圏論の理解を深める」なので、このメモもその2つの圏に関することが多いです。

以下では集合の圏を Set、体 K上の線形空間の圏を Vect_{K} と表します

14ページ

定義域と値域

例えば Setにおいて f(x) = x^{2} (x \in \mathcal{R}^{n}) という写像を考えた場合、

 fの定義域は \mathcal{R}^{n}、値域は \mathcal{R}^{n}_{+}

あるいは定義域が \mathcal{R}^{n}で、値域は \mathcal{R}^{n}と考えることもできる

集合の圏 Setが圏であることの証明

  • 対象:集合
  • 射:集合 Aから集合 Bへの写像 f f:A \to B
  • 合成: f Aから Bへの写像 g Bから Cへの写像としたとき、 (g \circ f) (A) = g(f(A))とする
  • 恒等射: f(A) = Aとなるような写像 f

以上を Setの圏の定義としたとき、これが結合法則と単位法則を満たすか確かめる。



結合法則

集合 A,B,C,Dに対して、射 f,g,h f:A \to B, g:B \to C, h:C \to Dとする

任意の元 x \in Aについて

 \begin{eqnarray}
( (h \circ g)\circ f)(x)
&=& (h \circ g)(f(x)) \\\
&=& h(g(f(x))) \\\
&=& h( (g \circ f)(x)) \\\
&=& (h \circ (g \circ f))(x)
\end{eqnarray}

となるので結合法則を満たす






単位法則

写像 f f:A \to B Aの恒等射を id_A Bの恒等射を id_Bと表す

このとき、

 \begin{eqnarray}
 (f \circ id_{A})(x)
&=& f(id_{A}(x)) \\\
&=& f(x) \\\
\\\
(id_{B} \circ f)(x) 
&=& id_{B}(f(x)) \\\
&=& f(x)
\end{eqnarray}

となるので、  f \circ id_{A} = f = id_{B} \circ fが成り立つ

よって単位法則も成り立つ

線形空間の圏 Vect_{K}が圏であることの証明

以上を圏 Vect_{K}の定義としたとき、これが結合法則と単位法則を満たすか確かめる

まずは合成 g \circ fが線形写像になっていることを確かめる

 fは線形写像なので以下の線形性を持つ( gも同様)
 f(a+b) = f(a) + f(b)
 f(la) = lf(a)
(ただし、 a,b \in U, l \in K


この性質を用いると任意の a,b \in Uに対して以下のことが示せる

 \begin{eqnarray}
(g \circ f)(a + b) 
&=& g(f(a + b)) \\\
&=& g(f(a) + f(b))\\\
&=& g(f(a))+g(f(b)) \\\
&=& (g \circ f)(a) + (g \circ f)(b) 
\end{eqnarray}


 \begin{eqnarray}
(g \circ f)(la) 
&=& g(f(la)) \\\
&=& g(lf(a))  \\\
&=& lg(f(a))  \\\
&=& l(g \circ f)(a)
\end{eqnarray}

以上より g \circ fの線形性が示せた

結合法則と単位法則についての証明は集合の圏の場合と同様なので省略する




 Setにおける同型射

 Setにおける同型射は全単射である

これは当たり前に感じられるかもしれないが、位相空間の圏では全単射が必ずしも同型射とはならない

(ここは位相空間の知識がないのでまだピンときていない)

なので、全単射が同型射となることを証明する

全単射が同型射であることを証明するには以下のことを示せばよい

写像 f:A \to B全単射ならば、写像 f^{-1}が存在して f^{-1} \circ f =id\_A, f \circ f^{-1} = id\_Bが成り立つ」

(証明)

 a \in A, b \in Bに対して f(a)=bとする

 f全単射なので、 f^{-1}(b) = aとなる f^{-1}がただ1つ存在する

したがって

 (f^{-1} \circ f)(a) = f^{-1}(f(a))=f^{-1}(b)=a=id_A(a)

および (f \circ f^{-1})(b) = f(f^{-1}(b)) = f(a) = b = id_B(b)

が成り立つ

 Vect_{K}における同型射

 Vect_{K}における同型射は全単射である線形写像である

まずはこれの逆写像が線形写像であることを示す

(証明)
 f:V \to W全単射な線形写像とする

f全単射なので、\forall k \in Kに対して f(v) = kwとなるような vがただ1つ定まる( v \in V, w \in W

よって v = f^{-1}(kw)

また、 f(v) = kwより、

 \begin{eqnarray}
\frac{1}{k}f(v)=w \\\
f(\frac{1}{k}v) = w\\\
\frac{1}{k}v = f^{-1}(w)\\\
v=kf^{-1}(w) 
\end{eqnarray}

以上より、 f^{-1}(kw) = kf^{-1}(w) ・・・ (1)

次に、 f全単射より f(x) = a, f(y) = bとなる x, y \in V, a, b \in Wがただ1つに定まる

よって x = f^{-1}(a), y = f^{-1}(b)

これより、 x + y = f^{-1}(a) + f^{-1}(b)

また、 f(x + y) = f(x) + f(y) = a + bより、 x + y = f^{-1}(a + b)

以上より、 f^{-1}(a + b) = f^{-1}(a) + f^{-1}(b)・・・(2)

(1)、(2)より f^{-1}は線形写像である

 f^{-1} fの逆射となることの証明は Setの場合と同様なので省略



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圏論のメリット

圏論においては圏の対象の内部まで意識する必要がない

例えば、集合論の場合は元があり、元の集まりとして集合があり、集合間の関係として写像がある

つまり、元の存在がないと議論が始まらない

それに対して、圏論は射を中心に定義されており、射の関係性をもとに議論をしていく

なので、対象の内部についてあまり意識する必要がない、というのが圏論の1つの特徴

ここら辺については物理学者のための圏論入門が詳しい